今年も2月14日が近づきました。 昨年のこの時期朝日新聞の『ひととき』欄に
掲載された文章を、この一年時々手帳の間から出して読んでいます。
富山県在住、私と同年齢の医師の方に転載のお許しを願いながら記してみます。

         『チョコはもう眺めるだけ』
お菓子コーナーを通るとき、一瞬立ち止まる。 白地に鮮やかなイチゴの写真の
デザインが40年前とほとんど変わっていない。 昔、つきあっていた彼がチョコレート
なんてと言っていたが、これだけは好きだった。
中学、高校と同級生だったが、25歳を過ぎてもつきあっていることに、一人っ子
だった彼の両親が難色を示した。 すでに脳外科医への道を歩き出した彼も
本音は「一家に二人の医者はいらない」だった。
私は病気をきっかけに、医学部を再受験して、まだ医学生だった。 彼から
「卒業する頃はババァだぞ」と、冗談めかして脅されても、病気で容姿が大きく
変化したことに引け目を感じていた私は笑えなかった。
彼の父親からの手紙が決定的な別れとなった。 息子を惑わせないでくれと。
それ以降、私達は別々の道を歩んだ。
神様はときに残酷だ。 彼が悪性腫瘍で37歳で他会するとわかっていたのなら
つないだ手を離したりはしなかったものを。 
最近くだんのチョコレートを買ってみたものの、パッケージを眺めているだけで
ある。 もう一度、一緒に食べたかったな。

お心のうちを勝手に想像しては失礼と思いつつ、長い間様々な想いを重ねながら
愛しい方への気持ちを熟成させていらしたのかなと感じております。
どうぞ天国で再開なさった折には、ご一緒にイチゴのチョコを召し上って
くださいますようにと祈りたい気持ちです。
毎年華やかなチョコ売り場を眺める度、私はこの文章に想いを馳せることに
なりそうです。